EPM(エンタープライズプロジェクトマネージャ)が現状打開の一手に!経営層と現場をつなぎ、DX変革を強力に推進

EPMO_三菱マテリアル株式会社

近年、多くの企業がDXに取り組んでいます。日本企業がDXを推進する際に失敗する原因として、経営層や社員のDXに対する理解不足・変革マインド不足が挙げられます。今回は、まさにこの課題を抱えた状態でDX戦略を推進し、厳しい状況からの改善に奮闘している三菱マテリアル社の事例を紹介します。どのような状況で「EPM(エンタープライズプロジェクトマネージャ)/EPMO(エンタープライズマネジメントオフィス)」に目を付け、導入に至ったのか、その背景や現時点での成果について話を伺いました。

三菱マテリアル株式会社(以下、MMC)
MMCはグローバルで勝ち抜くための基盤づくりとして、2020年から大規模なDX戦略(MMDX:三菱マテリアル・デジタル・ビジネス・トランスフォーメーション)に取り組んでいます。特に、DX推進の3本柱であるビジネス付加価値、オペレーション競争力、経営スピード向上の具現化を目指しています。そのために「顧客接点強化」「プロセス連携の強化」「経営スピードアップ」というDXの重要視点を掲げています。さらに、これらの基盤となる「システム・データ基盤の整備」と「人材育成・風土醸成」に照らして、優先的に取り組むべきテーマ(≒プロジェクト群のこと。以下文中ではプログラムと記載)を選定し、事業部門とIT/デジタル部門が一体となった活動を推進しています。

【インタビュイー】 ※2022年12月のインタビュー当時の役職
MMC DX推進部 企画室長 奥村 知生 さま
MMC DX推進部 企画室 EPMOグループ長 清水 信行 さま
MMC DX推進部 企画室 EPMOグループ グループ長補佐 竹之内 宏文 さま

【インタビュアー】 ※2022年12月のインタビュー当時の役職
MSOL PM事業本部 EPMO事業部 アカウントマネージャ 水上 涼
MSOL PM事業本部 EPMO事業部 プロジェクトマネジメントアナリスト 小谷 真子
MSOL PM事業本部 EPMO事業部 プロジェクトマネジメントアナリスト 北野 志歩
MSOL Digital事業部 アシスタントマネージャ 森川 大輝

※本文内、発言者敬称略

MMC 清水さま、奥村さま、竹之内さま
左からMMC 清水さま、奥村さま、竹之内さま

当時の状況

MMC 奥村:私はDX戦略への取り組み開始から約1年後の2021年に入社しました。当時はDX推進に必要な実行面でのプロセスや、社員の変革マインド面の醸成が不足していると個人的に感じていました。DX推進プログラム(プロジェクト群)が多くあがっていましたが、取捨選択をする・優先順位をつけるということができておらずすべてを並行して進めていました。

当然、人財不足で社員は複数のプロジェクトの掛け持ちが当たり前で疲弊も見られるとともに、プロジェクト推進における主要ポジションも外部のコンサルタントに依存している状況で、主体性が不足していたと感じています。また、MMDX全体としてプログラムを横断した経営層向けの状況報告が3ヵ月ごとにしかできておらず、経営層が前のめりな状況だったとしても、意思決定が容易でない状況でした。

私は前職の経験から、この状況を改善するにはプログラム・プロジェクトマネジメントの強化が必要だと感じていました。

課題意識を持ったものの社内に相談できる人がいなかった

MMC 奥村:プロジェクトマネジメントの強化に向けて取り組んだことは、『(1)外部依存から内製化体制への移管』
『(2)プログラムマネジメントの強化』です。

まず『①外部依存から内製化体制への移管』については、プロジェクト立ち上げから終わりまでを勉強できる絶好のチャンスがあるのに社員がプロジェクトマネージャを経験しないのはもったいないと思いました。そこで、人材育成の好機と捉えて半年ほどでプロジェクトマネージャを内製化しました。

次に『(2)プログラムマネジメントの強化』は、当時、数百人が関与しているDX戦略のプログラムマネジメントを3名程度で担っていたものの、経営層の側近として忙殺されており、テーマ推進の現場にはほとんど携われていない印象でした。

この状況に対して改善が必要と思ったものの、社内にはプロジェクトマネジメントスキルを持った人が少なく、外部ベンダーと協力体制を組んでプロジェクトを推進する経験が会社として乏しい状況でした。プログラム/プロジェクトマネジメントの必要性もあまり理解されていませんでした。そこで、第三者の知見と社内を説得するための材料を求め、社外の専門家としてMSOLに声を掛けました。

EPMOとの出会い/経営層とのEPMO導入調整

MMC 奥村:MSOLから提案された内容はもちろんですが、特に書籍『シン・トップダウン経営のすすめ』には私が従来課題を持っていた『頑張れば成果が得られる時代からの脱却の必要性、柔軟性が乏しさや一度決めたことを変更しにくい意思決定の仕組み、社員の能力を引き出す環境の不十分さ』など、変革を推進する組織の足枷となるような課題と、その解決策が理論的に説明されており、霧の中で道がぱっと開けていく感覚でした。

EPMOはまさにMMCのDX成功に必要な組織だと思い、提案された内容を踏まえて経営層を説得し、EPMO組織の立ち上げに動きました。説得材料としては、前述した課題認識に加え、現場の生の声を反映したエンゲージメント調査結果から読み取れる示唆などを取りまとめて臨みました。EPMO組織の導入コストが課題視されましたが、前述の『外部依存から内製化体制への移管』により、戦略系コンサルタントの費用を削減し、その費用を充てることで解消しました。

MMC 清水:私はEPMO設立直後の22年5月、PMOグループの立ち上げメンバーとして入社しています。プログラムマネジメントの遂行を想像していましたが、実際に入ってみるとプログラムマネジメントにとどまらず、戦略的な役割を包含した機能が設計されていて想像以上でした。また、奥村さんの掲げた『経営に寄り添う・テーマに寄り添う』というEPMOの組織コンセプトを見て、やりがいを感じたことを覚えています。

MMC 竹之内:私は以前他社への出向時にPMOの経験があり、プロジェクト横断マネジメントによる成功体験から、当社内にもプロジェクトマネジメントを広めたいとの思いを持っていました。とはいえ、何かを変えようと提案してもなかなか実現に至らず。そんな時に公募制度でEPMOを見つけました。奥村さんの話にも共感し経営層と直接対話できる立ち位置で変革に携わりたいという思いから、EPMOへの参画を決意しました。

MSOL 水上:奥村さまから課題感をお伺いし、まずは大規模な変革を進めるうえで統括的なPMOが持つべき機能※をベースとして、組織成熟度を診断させていただきました。結果として、EPMO組織設立によるプロジェクト運営の成熟度レベル向上が最適解と考え、成熟度向上に向けたロードマップを提示しました。
※書籍 [シン・トップダウン経営のすすめ]  "EPMOのフレームワーク" より引用

インタビュー風景
インタビュー風景

EPMO立上げ時

MSOL 小谷:当時のMMC社は、プログラム、プロジェクトマネジメントプロセスの導入が後手に回り、属人的な情報収集・可視化方法になってしまっていたため、「戦略的な意思決定を行える素地を整える」に優先度を置いて計画を練りながら推進しました。 中でも、私たち外部のコンサルタントだけが推進するのではなく、奥村さま、清水さまを中心とした社員の方々が経営および、テーマへの寄り添いを意識して各種調整ごとに臨んでいただきました。プロセス導入だけに留まらない組織風土改革を意識されていたため、スピード感をもって遂行できました。

EPMO活動概要・スケジュール
図1:EPMO活動概要・スケジュール

EPMOとしての手応えと今後の方向性

MMC 奥村:EPMO組織設立まではスキルドパーソンを配置し、個別に対策を講じて前に進めていた状況下でしたが、4半期に1回の状況レポーティングが経営層にエスカレーションされるのみだったため、経営層としては何をどう判断すべきかが明確でなかったと認識しています。

EPMO導入により、経営層が意思決定するための情報(進捗・課題・コスト・効果・リソース状況 など)をプロジェクト現場からタイムリーに上げることができ、かつ推進が停滞するプロジェクトを特定して支援するような対応も徐々に取り掛かれるようになりました。
立ち上げ当初、プロジェクトの現場はEPMO組織に投資するのではなく、直接自分たちのプロジェクトに人的資本を投入すべきなどの批判的な側面もありました。そんな中でも、経営層への報告資料の作成を代替し、現場はレビューのみにする報告負荷の軽減や、プロジェクトをまたいだ共通課題を関係プロジェクトにインプットしてリスク感度を高めること、また特殊要件を満たすベンダーの調査・選定支援を行う人的資源の供給など、プロジェクト推進に専念できるような支援を行い始めました。今では経営層・各プログラム双方から「助かっている」という声が上がってきています。

そのような声も後押しとなり、22年10月バーチャル組織として設置したEPMOが物理組織化され、MMCとしてマネジメントの組織成熟度を高めて成果を刈り取る第一歩を踏み出したと捉えています。

各DXプロジェクトの主役は、現場でプロジェクトを進めている事業部および、DX組織のリードであり、メンバー一人ひとりではありますが、DX施策全体の成功はEPMOにかかっているということを、経営層・現場が理解し信頼されてきている実感があります。

MMC 清水:プログラムマネジメントに必要な標準やルールは整い、プロジェクトに浸透してきていますが、各プロジェクトが抱える課題を早期に捉えて救う、というところはまだ道半ばだと考えています。

MMDXは22年10月から、ものづくり領域におけるDX推進についてよりいっそう加速させつつ、従来のプログラムの実行を着実に行うべく、プログラムの再編成、および体制強化などを行う「MMDX2.0」として新たなフェーズへ移行することになりました。(図2参照)

現時点では、とあるプログラムからは、他プログラムで発生していた課題の共有を受け、自プロジェクトのリスクとして計画に盛り込むことができたことや、特殊要件を満たすベンダーの調査選定の支援を行ったことなどの実例もでており、各プログラムへの寄り添いが徐々に定着している段階かと認識しています。
MMDXの本格フェーズに差し掛かりより各プログラムに寄り添い、よい関係性を築いていくEPMO体制を模索し、困りごとがあれば各プロジェクトから歩み寄ってもらえる組織を目指してリードしていきたいと考えています。

EPMO活動概要・スケジュール
図2:MMC中期経営計画資料抜粋 EPMO活動概要・スケジュール

MMC 竹之内:現状ではEPMO組織を作り、DX施策全体の成功のためEPMを機能させる素地を整えたに過ぎないと感じています。このような全社を巻き込む施策においては、特に社内外の関係する方々と信頼関係を築くことが大事だと考え、日々コミュニケーションを意識して職務にあたっています。

今後は、MMDX2.0を受けて、より各事業が成果刈り取りの主役になります。組織の壁などを感じさせず、EPMOに困りごとをどんどん相談してくれるような関係性に発展させたいと思っています。
そしてMMDX成功と同時に、当社がプログラム/プロジェクトマネジメントをできる会社なるための型を作る組織となり、永続的にイノベーションを起こせる組織体に成長したいと考えています。

MSOL 森川:私は、EPMOの中でも、より現場に近い立ち位置でご支援をしています。特に、『プログラム単位での成功を意識するEPMO』、『プロジェクト単位の成功を意識するPMO』という2層の視野を意識し、DX成功に向けたアクションが遂行できるよう日々カウンターの社員の方とコミュニケーションを取っています。
実際に、現場からもWorkshopの開催を要望いただいて事業所を訪問し、課題の洗い出しから伴走しています。変革に前のめりな姿勢を肌で感じる機会が増えてきました。

同じような悩みを抱える方へのメッセージ

MMC 奥村:プロジェクトの状況の視える化などはツール導入で実現できますが、それを活かすも殺すも関わる人々の関係性次第と思っています。また個人的に日本の組織は、社員に対して感謝や賞賛が少ないと感じています。組織内に感謝や称賛がなければ、よい関係性が築けません。
組織のマネージャにとって、メンバーに向き合うことがもっとも大事だと考えています。その時間を創出するために、プロジェクトマネジメントの仕組みはMSOLのような専門性を持つ外部パートナーのソリューションを活用して、社員に向き合うことに注力すべきと感じています。社員に向き合い、ソリューションを構築できれば組織は自走できるようになると思います。

実際にMMCではEPMの認知が高まり、EPMOがプロジェクト推進に役立っているとの声をプロジェクト現場からもコメントをいただくようになりました。信念をもって経営層とメンバー双方に向き合っていただければ、課題は解決し、組織として実現したいことが成功に向かうと信じています。

MSOL 北野: 奥村さま、清水さま、竹之内さまから貴重なお話をいただきましたが、似たような課題認識をもたれているミドル層の方々は少なくないのではないでしょうか。
特に「本質的な課題を解決するために一歩踏み出す行動力」と「経営層および、プログラム・プロジェクトに寄り添うEPMO組織」の2点が重要と感じています。

組織風土の改革に取り組むことにハードルを感じる方も多いと思いますが、成果刈り取りの確度を高めるための問題提起は、評価されるべき行動と認識しています。
当事例のように、私たちのような専門家の客観的な分析を材料にしていただきつつ、経営層とプログラム・プロジェクト・現場の双方を巻き込みながら進めて頂くことで、現状打開の一手となりうると考えています。

インタビューにご協力いただいた、奥村さま、清水さま、竹之内さま、貴重な機会をいただき誠にありがとうございました。

インタビュー風景
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