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2022.07.26

「MSOL×LTS×アサインナビ共催セミナー」日本のIT企業が真のデジタル企業になるために~DX を支援する立場に求められることとは?~

宮田さんバナー2
目次

    2022年5月19日、『日本のIT企業が真のデジタル企業になるために』と題し、MSOL×LTS×アサインナビ共催セミナーを開催しました。ハンブル・マネジメント代表宮田氏の講演内容をセミナーレポートとして公開します。


    デジタル時代が本格化し、各企業でもDXが目白押しとなっています。こうした外部環境が大きく変化しているにもかかわらず、日本のSIerは人材育成や組織改革において、遅れをとっているように見えます。現状、日本のシステム開発の現場はガラパゴスと言われるように、欧米とは異なった日本固有の課題をたくさん抱えています。これから、日本のSIer、そしてエンジニアたちはどう課題を解決し、どのように自己改革していけばいいのでしょうか。今回は、元富士通執行役員常務で、現在ハンブル・マネジメント代表、MSOL顧問を務める宮田一雄氏が解説します。

    やっぱり変だよ、日本のSI

    私は富士通に1977年に入社して以来、右肩上がりの時代とともに日本のITの歴史と向き合ってきました。しかし、2020年代に入って以降、デジタル時代が本格的に到来したことで大企業である富士通でさえも変わらなければ生きていけない時代となりました。

    いまは、私たちの業界がこれまで経験してきたような、日本人しらしい「神頼みのマネジメント(CA重視:管理重視マネジメント)」の時代から、価値を重視したシステムづくりに重きをおく、アジャイル開発を主流とした「PD重視:計画重視マネジメント」の時代がやってきているのです。

    しかし、私たちの業界は今、多くの課題を抱えています。その中身とは「SIerを頂点とした格差社会」「不正を生む温床になる多重下請け構造」「若者が日本のIT業界を避ける」、そして「SIerIT部門がゆでガエル状態で危機感に乏しい」ということです。

    私のこれまでのPMの経験を顧みると、「この業界は変だ」と思うことがたくさんあります。例えば、「プログラム能力が低いほうが残業代をたくさんもらえる」「設計ミスしたほうが、利益が出る」「要件定義(RD)した人は運用試験(OT)まで何をやるのか?」「コードを書く人こそ価値あることをやっているのに、なぜ給料が安いのか?」「お客様のPMや仕様検討者が重要な工程で、人事異動で交代するのはなぜか?」といったものです。

    私は44年間、この業界で仕事をする中で、こうした課題に対する論理的な解決策を見出すことができたのです。私はこれまで「みんな一生懸命頑張っているのに、会社はなぜ成長できないのか?」「なぜデスマーチは起き続け、メンバーは不幸になるのか?」ということに悩み、「頑張れば必ずうまくいくという、科学的方法論はないのか」という問いへの答えを見出そうとしてきました。そして、ようやくプロジェクトマネジメントの科学的方法論を発見するに至ったのです。

    それを一口に言えば、科学的知見のうえで日本人の強みを活かす。つまり、お客様とSEの間で正しい契約のもとプロジェクトのゴールを決め、「助け合う」という日本人に適した和=WAのマネジメントを行うことなのです。

    仕事には、つくるものが明確なもの「ウォーターフォール/CCPM:予見的マネジメント」(SoR)と、つくるものが不明確なもの「アジャイル/SCRUM:経験的マネジメント」(SoE)がありますが、これらを世界で認められている「方法論やフレームワーク」にすることで、互いの共通言語を持つことができるのです。これは一体どういうことなのか、これから説明していきましょう。

    大手SIerの幹部層に教えてきたこと

    私は富士通を退職する前の2年間、大手SIerSEのマインドを変革させるべく、次のことを教えてきました。それは「お客様の利益を生み出すパートナー」としての自覚をもつことです。

    現状、私たちはお客様から言われたことをしっかり守るという「受け身の文化」が身に付いています。しかし、現在の顧客ニーズは外注・現行保守といったものから、価値共創パートナーとしての役割を期待されるようにへとニーズが変わってきているのです。つまり、これからのSEは自発的・自律的な仕事のスタイルへシフトする必要があるのです。

    こうした顧客ニーズを変化させるきっかけとなったのがDXです。このDXの大きな目的は業績を改善することであり、従来の開発と比べて、業務のプロセスや人、戦略など組織の変化を促すため、テクノロジーよりもはるかに多くのものが関与してくることに特徴があります。今はVUCAの時代と言われるように、不確実で複雑な変化の激しい時代が到来しており、デジタル化の潮流は今後、全産業に波及していきます。あらゆる産業で破壊的イノベーションの波が訪れているのです。

    では、その先はどうなっていくのか。私は将来、ソフトウェアが中心となる時代が到来すると予測しています。実際、製造業や金融、ヘルスケアなど大企業のトップたちは「私たちは将来ソフトウェア会社になるだろう」と宣言しています。メーカーなのにモノはつくらない。ハードは単にソフトのイネーブラー(目的を可能にするもの)になっていく。いわば、モノと知・情報の主客が逆転し、知識集約型社会へのパラダイムシフトが起きているのです。

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    DX時代に求められる人材

    こうしたDXの時代においては、素早く変革し続ける能力を身に付けることが重要となります。企業でも、自社の強みとは関係の薄い協調領域については、SaaSやパッケージソフトを活用し、ビジネスの強みである競争領域では、変化対応力の高いITシステムを構築する必要があります。

    しかし、ソフトウェアの受発注には「要件全体を曖昧さなく定義することが困難であるにもかかわらず、要件を定義したとして発注」「大規模なソフトウェア開発の場合は、成果物の価値が明らかになるまで時間がかかる」など本質的な困難さがあり、SoE領域は従来の形態では対応が困難となります。

    そこで注目されるのが、小規模ソフトウェア単位での仮説・検証を繰り返し、ユーザー企業で内製化するという方法論なのです。したがって、富士通のようなベンダー企業においても、これまでの大規模ソフトウェアの受託開発から脱却する必要があるのです。

    これからは小規模ソフトウェア単位での内製が中心となり、ユーザー企業内のエンジニアが開発に従事し、エンジニア需要は平準化されることになるでしょう。今後、ベンダー企業の役割は労働力供給から高スキル人材によるスポット的な支援へとシフトしていく。いわば、日本の多重下請けモデルから、米国のような内製モデルへ移行し、SEは多重下請けモデルから脱却することができるのです。

    その意味で、これからのDX時代に求められる人材とは、複雑な社会の多様なニーズや課題に関する解決策を、革新技術やビッグデータを最大限活用して見出し、新たな価値を生み出す人材、そして、多様性をもった集団をマネージしリーダーシップを発揮する人材となるのです。

    デジタルビジネス時代の情報システム像とは、「つくる」という課題解決型から、ビッグデータやモバイルなどを「繋げる」という価値創造型にシフトしていきます。そこでは一連の開発サイクルが問題解決のウォーターフォール型から、問題を定義し機会を発見するアジャイル型へと変わり、開発サイクルを事業部門とエンジニアたちが高速で繰り返していくという仕事の仕方に変わっていくのです。今後エンジニアにとってデジタルビジネス時代に求められる資質とは、知識・スキル・常識を常に更新し続けられることになるのです。

    皆さんは何を目指すのか?

    こうして今後、現場マネジャーの仕事がジョブ型に変わっていく中で、皆さんは不安を抱くかもしれません。例えば、「自分の部下がポスティングでいなくなるのでは?」「今までは指示待ちで良かった。自分はこれから何を目指せばいいのか?」「専門性と言われても、今まで幹部社員はマネジメントしか評価されてこなかったのに?」といったものです。

    では、そのとき、1人の個として何を目指せばいいのでしょうか。

    私なら、まずこう問いかけます。「あなたは何によって憶えられたいですか?」。つまり、自分自身の価値観や強い願望の本質を見抜く必要があるのです。そして、「何になりたい」のではなく「何をやりたい」のかを決める。肩書きではなく、どんな仕事をしたいのかを決めるのです。

    そのためにも自分の視点を上げることが大切です。例えば、DX時代のCIOの立場で考えてみる。または、社外の有識者からの学びも重要です。あるいは、お客様側のPMの立場で考えてみる。さらに言えば、グローバルPMの立場でも考えてみるのです。

    以上のような視点を持つためにも、私は中山嘉之著『システム構築の大前提 ITアーキテクチャのセオリー』(リックテレコム)、長谷島眞時著『変革せよ!IT部門』(日経BP)、峯本展夫著『プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル』(生産性出版)、佐藤知一著『世界を動かすプロジェクトマネジメントの教科書』(技術評論社)などの本をお薦めしています。また、プロジェクトマネジメントの知識体系を学ぶためにPMBOK®ガイド第7版は必ず読むべき1冊としてあげておきましょう。

    これからアジャイル型の開発が主流となっていくということは、情報システム部門が主権を取り戻す機会でもあります。発注者と受注者という関係のウォーターフォール型開発とは異なり、アジャイル型開発は、「つくる」システム要件が明確にならないことから、チームで繰り返し開発を行うことになります。それは情報システム部門が主体的にプロジェクトを推進するチャンスの到来でもあるのです。これからはベンダー管理の役割から主体的にプロジェクトの一員となり自分自身が成長することができるのです。

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    SIerパートナー会社の経営層に伝えたいこと

    私が支援している会社で、次の経営に関わる皆さんに聞いてみたことを共有します。

    リーダー層の皆さんが抱えている仕事の課題としては「1名で作業している」「作業範囲が曖昧」「属人化していて作業の平準化ができていない」「部下育成ができない」といったことが挙げられました。

    また自分の成長への課題としては、「部下を育てないと次に向かえない」「スキル向上のための時間がとれない」「育てる力、頼る力が不足していて自分でやってしまう」ことなどがあげられました。

    さらに、自分が何になりたいのかという質問には「仕事の幅を拡げたい」「お客様から信頼されるSEになりたい」「交渉事もやれる人材」「部下を育成しながら円滑にプロジェクト運営したい」という回答がありましたが、ほとんど考えていないことが良く分かります。

    そして、会社の課題としては「M&Aにより様々なノウハウや技術があると思うが活かせていない」「部署間の異動が少なく、才能が活かせていない」「部署の囲い込みによる経験を積む機会の不足」「若手育成が不十分」といったものがあげられました。

    これらの悩みをまとめてみると、皆さんの会社の課題は、頑張る人だけが頑張る会社で、先が見えず、じっくり考えることができないということに集約されるのではないでしょうか。

    そこで私が考える処方箋としては、SIビジネスは当面大丈夫だが、これから下請けビジネスのモデルが成立しなくなる中で、新たな事業の軸を求めて人材育成に投資をして、直ユーザーでの仕事を通じて人材を成長させることが一つの方向性だと考えています。

    しかし、「営業もいないし、どうすればいいの?」といった質問をよく受けます。そんなときこそ、活用すべきパートナーが、MSOLなのです。MSOLはお客様のDX案件で上流を伴走し、ビジネス拡大を積極的に目指しています。お客様は開発を内製化する流れにあるものの、急に社内エンジニアを増やすことはできません。中堅ITベンダーがMSOLのパートナーとなれば、DX案件のビジネスを一緒に受注し、開発を伴走するエンジニアを成長させる場をつくることもできる、仕事を通じて育成する機会をつかむことができるのです。

    今、業界ではアクセンチュアの急成長が注目されていますが、同社はコンサルのみから、SIを請け負うという、自らリスクをとる施策にシフトしたことが成長の要因だと私は考えています。そして、御用聞き営業ではなくDXで顧客を指導し、仕様確定に責任をもつことでオフショアでもできる内製化が可能となり、中途でも組織力で即戦力にできるナレッジマネジメントが優れていたことが同社の急成長を可能にしたのです。

    また一方で、「でも、そんなエンジニアがいない」という質問もよく受けます。確かに、いないものはいません。だからこそ、自社で育てる、あるいは、プロのエンジニアを使って、マネジメントすることが重要なのです。そんなときも、MSOLをパートナーとすれば、支援する体制は整っていくはずです。

    これからIT企業が真のデジタル企業になるためには、お客様のプロジェクトを成功させることをゴールにして、マインドセットを変え、リスキリング(技術力×マネジメント力)を行い、評価制度を変えることが欠かせません。そして、実践の場として、デジタル案件で顧客と直接契約をして全社組織で支援しながら、やる気のあるマネジャーやエンジニアに現場で成功経験を積ませていくことが重要になっているのです。