Management Issue Vol. 6

日中合弁企業「ウィナーデジタル」始動
 DX人材提供と日中関係改善を同時に目指す

周 密氏 ウィナーソフト株式会社 代表取締役社長、 成都ウィナーソフト株式会社 総裁兼CEO、 中国ソフトウェア産業協会 常務理事・日本事務所長 

中国四川省出身。1994年、留学生として来日。広島大学経済学部を卒業後、同大学院国際協力研究科を修了。 2001年4月、三井物産に入社。2003年、中国に帰国、同年成都飛鳥日本語学校、成都飛鳥人材コンサルティングなどを創立。 2007年、成都ウィナーソフトを設立し現在に至る。

マネジメントソリューションズ(MSOL)は中国系ITシステム開発企業のウィナーソフトと共同出資し、2022年4月1日よりDXサービス企業「ウィナーデジタル」をスタートさせた。同社はDX向けに優秀な中国人エンジニアと中国発の先端ソリューションを日本企業に提供するサービスを主力とするが、今回の対談では新たな事業を開始する背景と目的、そして、日中関係の新たな関係性を構築するためのヒントについて、ウィナーソフト社長の周密氏と弊社代表(※取材当時)の高橋がざっくばらんに語り合った。

ユーザーが企業に何を求めているのか 日本のDXはもっと研究すべき

高橋
当社とITシステム開発企業であるウィナーソフトが共同出資したDXサービス合弁会社「ウィナーデジタル」が今年4月1日から始動することになりました。私と周さんが長年話し合ってきたアライアンスがようやく実ったかたちですが、今後日本企業がDXによってビジネスの仕組みそのものを変えていこうとする中、この会社は大きな武器になり得ると考えています。というのも、私が中国とビジネスをしていて興味深かったことは、中国のビジネス社会は非常に効率的で合理的、業務にもムダがないということです。ムダを省いていくことがDXの大きなテーマだとすれば、中国人エンジニアが集まるウィナーデジタルには大きな強みがある。そう考えているのですが、周さんはいかがでしょうか。
もともと私自身には日本で活躍している中国人エンジニアたちに対し、上流の仕事をするチャンスを与えたいという思いがありました。高橋さんは中国が効率的だとおっしゃいますが、例えば、中国では固定電話が普及しなかったから、いきなり携帯電話が普及したという経緯があります。一方の日本企業は長年の伝統や歴史を持っているがゆえに、DXを導入する難しさもあったと思います。中国が今効率的に見えるのはユーザーサイドからの要請に応えるべく、サービスの効率化を積極的に進めているからです。日本企業でもDXによって「内なる改革」を推進するためには、ユーザーが企業に何を求めているのかをもっと議論し研究すべきです。そのうえで、私たちはMSOLと共同で経営課題を解決する実行部隊を多くの日本企業に提供できればと考えています。
高橋
MSOLのPMOコンサルタントは組織の内部に入り込んで、複雑な業務やシステム、人間関係を解きほぐしながら改革プロジェクトを円滑に進めることが仕事です。ただ、これまで日本の経営者は本気で会社を変えようとはしてこなかった。それは人員をリストラすることが日本では非常に難しかったからです。しかし、今や日本を代表する銀行やメーカーでさえリストラを行う時代となりました。つまり、人員を減らしていくことに対するアレルギーがなくなっているのです。私は大学時代から日本的経営の研究をしてきましたが、90年代は人をリストラすることは経営者失格の烙印を押されることを意味しました。いわば、経営者にとっては組織を守ることが最優先だったわけです。それは江戸時代から続く幕藩体制が大きく影響しているとも言えるのですが、それも終わろうとしています。その意味でも、今後日本企業のかたちを変えていくDXは、ますます進んでいくと考えています。そうした中、生まれたウィナーデジタルですが、そもそも周さんは日本との係わりが深い。いつ頃、日本に来られたのですか。
私は1994年に中国の高校を卒業し、日本に留学しました。広島大学で大学院まで学び、2001年に三井物産に入社しました。そこで情報産業部門の経理マンとして投資サイドからITの世界を見てきました。その後、中国に帰国し、26歳で日本語学校を起業しました。中日の交流を深めたいという思いと、大学では学費免除、大学院時代には文部省(当時)の国費留学生として奨学金の援助を受けるなどしたことから日本に恩返しをしたいという思いがあったからです。そうして仕事を続けているうちに、ITの社会的重要性を認識する中で、改めてIT分野の仕事に従事したいと思うようになりました 。2007年に現在のウィナーソフトを設立し、以来、日本企業と仕事をしながら、日本における中国人エンジニアの現状を知るに至り、彼らがもっと活躍する場をつくりたいと思うようになったのです。

優秀な中国人エンジニアたちは 日本に眠っている

高橋
周さんがITビジネスに乗り出した2007年当時は、日本と中国の人件費の差を利用したオフショア開発が盛んでした。しかし今は中国人の人件費も高騰し、上海や北京では日本と変わらない賃金水準となっています。オフショア開発が成り立たなくなっていく中で、中国のIT開発企業も中国国内に目を向けるようになりました。その結果、もともと日本に住み、日本語が堪能なブリッジ型の中国人エンジニアが大量に死蔵されることになった。今回、ウィナーデジタルの立ち上げによって、そんな優秀な中国人エンジニアたちをもう一度掘り起こし、よみがえらせたい。同社をこれから日中の架け橋のような存在に育てていくことで、エンジニア不足と言われる日本のDXの現状を変えていきたいと考えています。
日本に在住する中国人エンジニアは約10万人いると言われています。彼らは個人事業主のほか、社長の自宅マンションがオフィスのようなペーパーカンパニーも含め、数千社ある中国系のIT会社に在籍しています。日本には現在IT人材が100万人おり、数十万人不足すると言われますが、一方の中国には800万人もいます。上海、北京では確かに人件費が高騰していますが、全国的な水準ではまだまだ低いのです。日本のDX人材不足を中国人エンジニアである程度解消できれば、私が常務理事・日本事務所長を務める中国ソフトウェア産業協会が進めている中日IT産業の交流促進の目指すところでもあります。 中国では優秀なエンジニアでテンセントなどの著名IT企業に入社できれば、通常の5~10倍の給料を得ることができます。そのため、わざわざ日本語を勉強して、お金のために日本に行きたいと思う優秀なエンジニアは少なくなっているのです。ただ、その一方で日本は中国人にとってまだまだ魅力的な国でもあります。わびさびの日本伝統文化とアニメ漫画ゲームなどの現代コンテンツはたくさんの中国ファンを持っています。また、社会の制度や環境も整備されており、私自身、日本は世界で一番ワークライフバランスが整った国であると感じています。日本企業も優れているところは多いし、日本で仕事をする魅力をもっと発信すべきなのです。
 では、これからウィナーデジタルがどうやって優秀な中国人エンジニアを惹きつけていくのか。それにはMSOLが持つ魅力的な顧客基盤が効果を発揮すると見ています。MSOLは大手企業から直接仕事を受注するだけでなく、参謀役としての信頼性も高い。それが大きな魅力となっているのです。もう1つは、中国、日本、アメリカの企業を並べたとき、企業の体質として中国は日本とアメリカの中間にあるということです。中国で育ったエンジニアは実力主義者であり、文句も言わず日本人のように何日も徹夜も厭わない性質を持っています。しかし、その一方で、アメリカ人のように自分の努力がどれだけ報酬として報われるのかを重視する傾向もあります。いわば、中国のエンジニアは日本とアメリカのハイブリッド型なのです。
高橋
これまで日本企業は組織を一番重視してきました。バブルの頃、栄養ドリンクのCMで「24時間戦えますか」というキャッチコピーが流行りましたが、個人の事情は組織の前では考慮されませんでした。しかし、そうした組織のために自分を犠牲にする考え方はもうナンセンスだと思います。今や日本でも30~40代のビジネスパーソンを中心に組織に忠誠を誓うのではなく、自分が稼ぐことができる会社で働くという考え方に変わってきています。今はこれまでの日本企業の古い慣習が新しいものに取って代わろうとする節目に来ているのです。その意味でも、ウィナーデジタルがスタートする時期としては、まさに良いタイミングだと思っています。 他方、中国人と仕事をするうえで、日中の間にはいろいろな問題が横たわっています。しかし、これまでのように感情的な議論に走ることは非常に危険だと思っています。これからは若い世代を中心にフェアな考えのもと両国の関係を改善できるように互いに情報を発信し合う必要があると考えています。

日中関係を改善するために私たちは何をすべきなのか

例えば、中日のメディアが互いの国の好感度について調査するニュースを毎年見ていると、日本で中国に対して好感を持っている人の割合は10%程度に過ぎません。一方、中国側では、50%以上の人が日本に対して好感を持っています。中国には日本が好きな人が意外に多いことを日本人はあまり知らないのかもしれませんね。
高橋
そうですね。日本の中国に対する見方はどうも厳しい。もちろん過去の歴史については日中ともに様々な見方があります。ただ、日中の関係性を高めていくためには、それぞれがもっと互いの歴史について勉強すべきだと思いますね。
あくまで感情論に陥るのではなく、きちんとバランスのとれた歴史観を持ち、互いに友好的な関係を築いていくことが必要です。私が好きな有識者の1人である、多摩大学学長で評論家の寺島実郎さんは「全体知」が重要だとよくおっしゃっています。いろんな情報をできるだけ収集し、いろんな角度から判断する、そうした冷静な見方が必要なのではないかと思っています。
高橋
メディアに翻弄されて、感情論に陥ってしまうことは絶対に避けなければなりません。私は新たな関係性を構築するためには日本国内だけで完結するのではなく、台湾や韓国も含めた東アジア全体で考えていかなければならないと考えています。その意味でも、将来的には個人の立場でシンクタンクを設立するなど、新たなかたちで貢献してもいいとも考えています。これからウィナーデジタルのような会社が日本でも認められるようになれば、東アジアの平和にもつながっていくと思っています。

今こそ新たな日中関係を構築すべき時期が来ている

中国は歴史的に見ても、日本の皆さんがイメージされるような好戦的な国ではありませんし、そこに住む多くの国民も好戦的ではありません。中国人は、もし嫌いな人と会っても表情を決して表には出しません。長い歴史を持つイギリス人、あるいは日本の京都の人のように、実際には衝突を嫌い、調和を重んじるタイプなのです。
高橋
今の日本の安全保障論についても議論が偏っているように見えますが、このままでは偏った見方をする人たちが増えかねません。これからは有識者というよりも、私たちのような立場にある人間や若い世代が積極的に情報発信していかなければならないと思っています。日本は「空気」を大事にする国であり同調圧力が強く、一端世論が形成されると、反論は受け付けず、猪突猛進してしまう傾向があります。これは非常に怖いことです。日中の関係についても問題はむしろ日本国内にあるかもしれません。日本の政治や社会の在り方を今こそ、見つめ直さなければならない。しかし一方で、矛盾するように聞こえるかもしれませんが、日本は一端舵を切ると、そちらに動き出すのも早い。今はその意味で、新たな日中関係を構築すべき時期に来ているように思えるのです。
4月からスタートするウィナーデジタルも新たな日中関係を象徴するような会社にしていきたいと考えています。優秀な人材に集まってもらえるようにインセンティブを高めていくと同時に、日本企業に優秀な中国の人材をDXの実行部隊として円滑に提供していくことで、これからの日本経済の発展に貢献していきたいと思っています。
高橋
私は今年50歳になりますが、新たな人生プランを今つくっているところです。30歳のときに最初の人生プランをつくりましたが、今振り返ってみると、この20年間で目標の8割ほどを実現することができました。これから何をすべきか。今後は自分のためというよりも社会のために何ができるのか。それを軸にこれからのことをじっくり考えていきたいと思っています。

(対談日:2022年3月17日)

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