2023.12.13

どうすれば活躍できるアジャイル人財を育成できるのか ~MSOL流若手アジャイル人財育成のポイント~

アジャイル_若手
目次

    あらゆるマネジメントを実践していく中で、従来型のやり方だけではなく、もう一つの選択肢として注目されているアジャイル。しかしながらアジャイル人財は現状非常に不足していると言われています。 では、どのようにすればアジャイル人財を育成できるのでしょうか 。
    今回はMSOLでのアジャイル人財育成の実践例を、プロジェクトマネジメント協会(PMI)の日本支部アジャイル研究会元代表で、『現場で見つけた144のヒント アジャイルに困った時に読む本』(ダイヤモンド社)を著したDigital事業部アソシエイト・ディレクターの渡会健、同事業部若手メンバーである楠川達也(新卒入社3年目)、鍾濤(ショウトウ)(中途入社1年目)、鈴木康一郎(新卒入社2年目)が語ります。 MSOLでのアジャイル人財育成を実際に受けた後どのような活躍を現場実践しているか、具体的に話します。
    (上記写真左から、鍾、鈴木、渡会、楠川)
    ※社名、所属は対談当時

    渡会

     まず私たちMSOLでは新卒社員全員に対して入社後2か月間の集合研修を行なっています。その期間に社会人としての基礎教育、および弊社の特徴でもあるPMO業務の教育を行いますが、その中に教養レベルとしてアジャイル基礎研修も含めています。集合研修後は、各部署に配属となりますが、アジャイル チームに配属となった新卒社員には、アジャイルの専門家になっていただく必要があります。そのためアジャイルについての教育を徹底的に行い、あわせて配属後2か月以内にアジャイル関連の資格、認定スクラムマスターを会社が費用を負担して取得してもらっています。この中で一番重視しているのが、教養として受けたアジャイル基礎研修の内容を自身の言葉で他者に説明できるレベルまで落とし込んでいく教育です。

     MSOLのアジャイル支援サービスではコーチング、コンサルティング、トレーニングの3分野でサポートを行っていますが、そのすべての基本となる内容がアジャイル基礎研修に詰まっています。というのも私がこれまでアジャイル専門家として長年蓄積してきた知見やノウハウを凝縮させているからです。 一般的な育成教育では、教えたい内容を一通り座学などで教えるだけで終わり、教えられた側は学んだつもりにはなりますが、実際には学んだ内容を本人自身が消化していないケースがよく見受けられます。しかし、MSOLが重視しているのは、読んで聞いて得た知識に留めるのではなく、自分の言葉で説明できるようになるまで定着を図ってもらうことです。いわば、自分が受けた教育内容を自分自身で言語化することで、真の育成と即戦力化につなげています。

     どのようなジャンルであれ、自分の言葉で答えられるレベルになるまで徹底して行う、それが育成していくうえで重要なことではないかと考えます。MSOLの場合はそれがアジャイル基礎研修という形で明文化されていますが、皆様も何かしらの軸となる教育コンテンツをお持ちのはずです。それを基礎知識と実践を合わせて教え込み、自分の言葉で話す機会を持たせることが大事なのではないでしょうか。 その成果として、新卒が現場で1人前に動けるようになるまで平均半年ほど。うまくできる人はさらに早い段階で現場にアサインされます。
     では、ここからMSOLのアジャイルを学んだ若手メンバーにアジャイルの実践経験について語っていただきましょう。まずは鈴木さんからどうでしょうか。

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    デジタル事業部 渡会健

    鈴木

     私は現在新卒2年目ですが、入社1年目に携わった 新規事業開発 プロセスにアジャイルを適用した事例についてお話したいと思います。新規事業開発については、最初に企画を固めてから計画を立ててといった従来型のアプローチでは不確実性が高い状況に対しては、スピード感の点で限界があります。そのため、アジャイル的なプロセスを適用して、仮説と検証を繰り返しサービスやプロダクトを出していくことが重要になってきます。
     私が関わった新規事業開発では、まず新規事業開発のきっかっけとなったプロダクトの担当者と営業部門の部長課長級のメンバーらとワークショップを開催し、アイデアを出し合うことから始めました。そのとき、私は議論の進め方を渡会と一緒に考案しながら、議論の場ではファシリテーターの役割を果たしていました。

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    デジタル事業部 鈴木康一郎

    渡会

    そのときは「リーンキャンバス」(Lean Canvas)という新規事業などのビジネスモデルを可視化するためのフレームワークを使ったんだよね。

    鈴木

     そうです。従来からあった「ビジネスモデルキャンパス」の発展形であり、より新規事業開発に向いている「リーンキャンバス」をベースに議論をリードしていきました。これをもとに1人で複数のアイデアを出し合い、そのアイデアの中から成功しそうなものの順番を投票で決め、優先順位の高いものから深堀していくという方法を取りました。すべてのアイデアについて広く漏れなく考えるのではなく、まず優先順位を決めてターゲットを絞りながら議論していくのです。もし深堀していく段階でチャンスがないとわかれば、軌道修正して次の順位のものについて議論していく。「リソースを使い切る前にうまくいくプランへと反復的に移行すること」を意識し、メンバーの皆さんへ今取り組むべきことは何かを明確に示すことが重要だと言えるでしょう。

    渡会

    ただ、すべてが理詰めでうまくいったわけではなかったんだよね。

    鈴木

     新規事業開発と言っても、今回は全くのゼロベースではありませんでした。事業の中心に据えるプロダクトありきだったため、仕様上の制約やMSOLではコントロールできない外的な要因によって思ったように進められない事態も発生しました。 実際、数か月後に判明した制約によりうまくいくと思っていたプランが一気に崩れることも経験しました。
     しかし、うまくいかなかったことを無駄にするのではなく、次のアクションへのフィードバックとして改善を重ねることでチームとして成長することができるのもアジャイルの一つの特長です。
    クライアントの成功のためには現場での泥臭いことも重要と考え、信頼関係を築きながら、お客さまとともに前進してきました。

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    渡会

    アジャイルの視点から、新規事業で陥りがちなポイントとはどこだと思いますか。

    鈴木

     これはアジャイルに限らないですが、日本企業の場合、新規事業を片手間でやってしまうケースが多く、兼務などでリソースを投入できない場合が少なくありません。本来、新規事業は片手間ではできないものなのですが、そうせざるを得ない環境に立たされているのです。そのような中で捻出した時間で出した結論は一度出すと中々捨てられない状況に陥りがちでした。

    渡会

     一度決めたことをなかなか変えられないという先入観もあるでしょうしね。状況が変われば、これまで検討したことであっても一度捨てるべきなのに、それがもったいなくてできず固執してしまう。そうならないようにすることも私たちの役割の1つだよね。
    では、現在スクラムマスターとして活躍している鍾さんはいかがでしょうか。

     私は中途入社1年目 大学院でアジャイルは勉強していたのですが、現場での実践経験はあまり多くない状況で、配属後の教育を2か月間受けた後、この案件にアサインされました。スクラムマスターの役割は、最終的には自分がいなくても成長し続けるチームを築くことです。そのために勉強会を開いたことについてお話したいと思います。
     そもそもスクラムマスターの目的は、アジャイルチームの成果を継続的につくり出すことにあります。スクラムマスターはいかに自律的に成長できるチームをつくるかを常に考えなければなりません。しかし、スクラムマスターがいつも指示を出していては、チームはいつまでも自律的に動くようにはなりません。だからこそ、チームのメンバー1人ひとりがこうすべきだと自覚し行動できるようにさせることが大事なのです。
     今回のケースではお客様は既にMSOLのアジャイル基礎研修を1度受講しており、アジャイルについて一通り勉強していましたが、なぜそれが正しいのか、あるいは、より正しくするにはどうすればいいのか、まだ十分に落とし込むレベルまでは理解できていませんでした。アジャイルでは「なぜそうなのか」を理解していなければ、うまく進めることができません。そのため、私は週1回1時間、4カ月ほど「メンバーの体系的な知識を深める」ための勉強会を行うことにしたのです。

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    デジタル事業部 鍾涛

    渡会

    勉強会はあえて強制的なものにしなかったので、当初は参加者も少なかったけれど、参加者のリピート率も高く、今はテーマのリスエストも多くでているそうですね。

     アジャイルの原理原則を理解しなければ、その対応はどうしても表面的なものになってしまいます。正解を教えて下さいというリクエストもあるのですが、いくらテクニックを教えても状況が変わってしまえば、テクニックの使い方も変わってしまいます。だからこそ、原理原則をしっかり理解しなければならないのです。そのためには何よりも基本であるアジャイルのマインドセットをしっかり理解することが大切で、そのうえで現場に応じて適応させることが重要なのです。
     メンバーの皆さんも勉強会を経るごとに理解が深まっていき、その結果モチベーションが高まっていくのがわかります。勉強会を盛り上げていくにはファシリテーションのほか、ゲーム性を取り入れるのも必要で、そうすると参加者の意識も高まっていくと思います。
    その結果、今ではチームのメンバー1人ひとりがこうすべきだと自覚し行動できるように変わりつつあり、現在もチームは継続的に成長を続けています。

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    渡会

     今でも継続的にチームが成長し続けているのですね。スクラムマスターとして素晴らしい成果だと思います。 さて、最後に「知る」と「わかる」の間の大きな溝を埋めることができた事例について、楠川さんに語ってもらいましょう。

    楠川

     私は入社3年目ですが、配属されるまでアジャイルのことはあまり知らない状況からのスタートでした。それが今では複数社のアジャイルチームを同時に先輩の助けなく単独でコーチングできるまでに成長したと思います。その中で今回はチームレベルで「アジャイルの世界観」のスタートラインを揃えることの重要さについてお話させてください。
     アジャイルという言葉の意味はかなり広く、捉え方も思想も人それぞれです。チームとしてプロジェクトを進める際に、チームメンバーの中にあるアジャイルの世界観を整えなければ、進め方も食い違ってきます。私たちがご支援していく中で、プロジェクトを開始する際に、メンバーに今回のアジャイルプロジェクトにおいての「アジャイルの世界観」のスタートライン揃えることを重要視しています。
     その手段として、MSOLの8時間の研修を受講していただくこともあれば、まとまって時間が取れない時には1~2時間の勉強会を継続的に実施することをしています。
     プロジェクトの初期段階でアジャイルに関する理解のレベルが揃っていれば、MSOLとしても支援をする際のコーチングやアドバイスなどをする際に、「今回のアジャイルの考えに基づいて」皆が一つの方向を向いて話をすることができます。アジャイルを経験した人も経験していない人もいる中で、勉強会や研修を通して、 知らない、わからないという段階から、知っているという段階へ、そして支援の中で知っている段階から、段々とわかってくるという状態へ持っていきます。

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    デジタル事業部 楠川達也

    渡会

     楠川さんはMSOLに入社後、アジャイルを教わって、半年も経たないうちにお客様へアジャイルを教えるという現場を経験することになりました。配属後の育成に於いて自分の言葉で話せるレベルまで落とし込めた経験があったからこそ、お客様にも教えることができたんだよね。

    楠川

     そうです。とくに「知る」と「わかる」には大きな違いがあります。わかるという段階にまでもっていくには、やはり具体例を見て、自分の中で想像しながら学んでいくことが必要になってきます。相手の立場よって、腹落ちしてくれる具体例は違ってくるため、どんな事例が一番刺さるかを相手によって選ぶようにしています。

    渡会

    アジャイルの世界観を整えるときに気をつけていることは何ですか。

    楠川

     相手がこれまでしてきた経験や考え方について、決して否定しないということです。ゼロベースの人はいいのですが、違う世界観を持った人は否定せずに、包み込んであげることが何より大事なのです。私はベースをつくるだけで、チームメンバーがそれをカスタマイズし、自分事として語るようになる。いわば、チームの世界観が見えてくるようになれば、そのチームは成長したと言えるのです。

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    渡会

     そのチームの世界観を作るために、MSOLのアジャイル基礎研修を上手に活用するだけではなく、コーチとして参画するMSOLのメンバー自身がチームに「知る」と「わかる」の大きな溝を地道に埋めていくことが重要という事ですね。素晴らしいです。

     さて、今回対談に参加した3名が上記実績を出せたのは、MSOL のアジャイル人財育成で、常に自分事として自分の言葉でアジャイルについて話せるようになるまで落とし込めるまで、徹底的に教育を行っていたが故だと思っています。それが他社にはあまりないMSOLの大きな特徴だと言えます。ただ研修を受けて終わりではない。学んだことを自分自身で消化できる。そんな仕組みづくりについて、上記で話した3名の実績を踏まえて、私たちは皆さまに合わせた具体的な育成に対するご相談に乗ることができます。ご興味があれば、ぜひ当社まで問い合わせていただければ幸いです。

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    (対談日:2023年9月5日)
    アジャイルについてはこちらをご覧ください。